- 2019-06-02 (日) 0:55
- Fishing
北海道の湖を巡る旅、4つ目の湖は、朱鞠内湖だった。
アイヌの言葉でスマリナイ<sumarinai>とは、キツネの川。
たくさんのキツネがこの湖の周りにいたから、この呼び名がついたのだろうか。
朱鞠内移動の前日は、紋別にある観光ホテルに宿泊した。
夕飯を食べてから、ルアーの整備を行う。トリプルフックをシングルバーブレスフックへ付け替えるのだ。
今回、朱鞠内へ持ち込むルアーはかなり厳選した。
フローティングミノーの9m、11cmそして13cm。いずれもバルサやウッド製品で、ゆっくり引いても動くもの。
ジャークして30cm~50cm水面下に沈み、その後ゆっくりと浮上して喰わせのタイミングがとれるもの。
このジャンルのミノーを使った釣りで、今回は、支笏湖と屈斜路湖で実績を出していた。
キモは、見せて、寄せて、喰わせること。
手持ちのルアーを厳選すればするほど、ゲームは充実していく。
紋別からの海沿いの道を走り、名寄に向かう。
青空が広がり、タンポポ、牛と空のコントラストが綺麗だった。
釣りで北海道を巡ると、いつも慌しい。でも慌しく移動する中でも、こういった風景はこまめに写真に残しておいて、旅の途中に眺める。
そうすると、自分がどの土地を通ってきたか、走った足跡がわかるというか、そんな実感が湧いてくる。
名寄へ向かう途中は山道になる。
使われなくなって時間の経過した酪農施設。
建物のクスミは時間の流れを感じさせるが、野に咲くタンポポは芽吹いたばかり。
ノスタルジックな風景をつくっている。
朱鞠内湖へはあと少し。
この日は気温30度を超えて、真っ直ぐにの伸びた道には陽炎がボヤボヤと上がっている。
過去2,、3度、朱鞠内を訪れているが、5月半ばで真夏のような気温ははじめてだ。
正午ちょうど、レイクハウス朱鞠内に到着した。
前回来たのは3年前の11月、初冬だった。そして、この春(といっても気温は夏だが)に宿泊するのは、はじめてだ。
そんなに訪れているわけではないが、スタッフの何人かの方から「久しぶりじゃない!」と挨拶をもらう。
午後からは渡船で渡る島を相談する。この天気、風も吹かずに状況はどこも厳しいようだ。
結局、岬のある湖南の島に渡った。
ここにいるのは僕ひとりで、島を貸しきっている、イトウがいれば喰わせてやる。
と、自信満々にキャストを開始したのはよかったが、やはりこの一言が漏れる「タフい」。。
半日、キャストを重ねた。
ルアーを手前まで追ってくるイトウを1匹、目視しただけでこの日は釣りを終えた。
朱鞠内湖、2日目。
朝4時の湖には、既に何艘かのボートが漕ぎ出している。
朱鞠内の朝は、いつも緊張感と期待に満ちている。今日は釣れるだろうか。
客観的な事実。僕は朱鞠内で、これまでデコをくらったことが無かった。
そして夏や冬といった、イトウを釣るには厳しい時期をあえて選び、釣果を出していた。
春の産卵直後、ワカサギで岸よりしてスレていない、ナイーブなイトウはこれまで手を出してこなかった。
そういった過去の釣行に比べて、まさに春狙いの今回はイージーだと油断していたのだ。
しかし、季節進行は進み、既にイトウがワカサギを食べている様子もない。湖で数も釣れていない。
春でもない、かといって夏でもない。なんとも中途半端な時期。魚の行動パターンが読めないでいた。
この日渡ったのは、過去にも釣果を出したことのあるポイントだった。
朱鞠内にある沢山の島の中でも、自分に相性の良い島というのは、たしかにある。
迷った時は、湖の状況把握のために、地形や水の流れをよく把握したポイントに入るのだ。
そこで結果が出ればやっていることが間違っていないのだし、たとえ釣れなくても、別のパターンを模索できる。
お昼前になって、1匹目の魚がきた。フローティングミノーにだ。
アメマスかと思ったら、イトウだった。このサイズがいるということは、デカいのもいるはずだ。
2匹目に来たのは、サクラマスだった。
昨日のポイントとは違い、風回りと湖流の合わさり方から見て、理想的な状況に想えた。
その後しばらく、魚の反応は途絶え、悩ましい時間がつづいた。
しかたなく、ルアーのレンジをすこしづつ深くして、反応をみていく。
その一匹との遭遇は、突然だった。
瓦場を歩きながらキャストしていると、ドスン。鈍くひったくる感触。
瞬間、首振りで、ドラグが小刻みに出されているのを見て、このラインの先にいるイトウが、これまで掛けてきた魚とは桁違いに大きい個体だと直観する。
岸辺からほぼ垂直にディープが隣接している、断崖絶壁に近いエリアで掛けた。
だからスタンプ等の障害物に巻かれる危険性は少なかった。その反面、アングラー側は足場が悪く、動けない。
魚が泳ぐだけでドラグが出されるが、暴れさせないように、ひたすら耐える。
5,6回、沖のディープへ向かう激しい突込みをかわして、7度目のポンプアップで水面近くに浮かせた。
デカい。ただ、デカい。それだけだった。
ランディングネットで対処できるサイズを、はるかに凌駕していた。
かといって、水面に入り込んで、ハンドランディングをするのはあまりにも危険だ。
わずかながら、断崖に残されたポケットに魚を誘導して、岩場に横たわらせる。
不思議と大きな抵抗もなく、目の前に1メートルを超える巨体が、威風堂々と、それでも静かに空を眺めていた。
嬉しい気持ちもあった。
でも、朱鞠内でいつかは釣りたいと思っていたメーターオーバーを釣ったことに、畏怖の念を抱く。
まだ産卵から回復しきっていないのか、少し色が入っている。
この巨大なイトウを、はやく湖に還さなければ。そういう気持ちになる。
水の中に魚を横たわらせたまま、写真を撮り、プライヤーでシングルフックを外して、湖に放つ。
魚体を支えて、頭を湖へ向けてやると、背びれと尾びれで、1度大きく水面をかき回して、水の中に帰っていく。
この大きさになるまでに何年をこの湖で過ごしてきたのだろうか。
10年か20年か、途方もないような時間を水の中で生きてきたのだろう。
朱鞠内で目標のメーターオーバーのイトウを釣った。それが嬉しかった。
午後5時に渡船が迎えにくるまで、キャストを繰り返し、気持ちよく1日の釣りを終えた。
この日のレイクハウスに戻ると、僕は何人かのごく親しい友人に、大きなイトウを釣ったことを静かに話した。
なぜか自慢する気にも、謙遜する気にもならず、朱鞠内湖の主のようなイトウが湖を悠々と泳ぐ姿を想像した。
最終日の朝。
この日は、知り合ったフライフィッシャーの方と1日、釣りをご一緒させていただいた。
この方は仙台から来られ、数か月をキャンピングカーで過ごし、北海道をまわられているとのことだった。
渡船で渡った島は、自分が苦手とする粘土質がメインの地形を持つ場所だった。
朝から、個人ボートで渡った人が既に釣りをされていたが、僕らが来くると、ポイントを譲ってくれた。
シングルハンドロッドしか持参しておらず、ダブルハンドをお借りしながら手ほどきを受ける。
それから、2人で5時間ほぼ休まずのキャストを繰り返した。
だがイトウの反応はない、一匹として食ってこない。こういう日もあるのだ。
ただこの熟達したテクニックを持つフライフィッシャーの釣りを見て、多くを学んだ。
また、イトウが口を使う瞬間の対話では、ルアー&フライでお互いに合致点もあった。「太陽光と風」だ。
朱鞠内湖で3日間の釣りを終えて、レイクハウスに戻る船。
何か大きくて、大切なことを一つだけ成し遂げた気がして、清々しい気持ち。
レイクハウスに飾ってある、イトウのタペストリー。
この湖には、今回釣ったあのイトウを超える大物もいるのだろう。
目標のメーターを釣っても、また新たな目標が出来て、心に思い描くイトウは、遠くに泳ぎ去っていく。
あてどない、果てしない夢だ。
イトウ、幻になりにけり。
今回の朱鞠内も、さまざまな方のお世話になった。
3年ぶりに再会した、凄腕フライフィッシャー。1日を同行させていただいた熟練のフライフィッシャー。
レイクハウスで、親身になって釣りの話を聞いてくださった方々。
また会える日楽しみにして、湖を去る。
4つ目の湖を後にして、5つ目の湖に向かう前に、どうしても寄りたい場所があった。
美瑛だ。
僕の好きなアニメのひとつ『魔法使いに大切なこと 夏のソラ』。そこに登場する美瑛を見てみたかった。
車をほっぽり出して、歩いて登った坂には、アニメでみた景色が広がっていた。アニメはいいですね。
トラウトの釣りをしていると、堅苦しい人のイメージを持たれたりする。
たしかにこの釣りを愛する人たちは、どこか近寄りがたい凄みがある。
僕は頭の半分でそのトラウトの世界観を理解しながらも、もう片方では二次元世界から得た自由な発想を大切にしたいと思っている。
ふと考えてみると、僕は坂のある街が好きなのではないか。
尾道や呉もそうだし、長崎もそうだし、横須賀だって、美瑛だってそうだ。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだけど。
いよいよ次の湖は、然別湖。
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